水平をほどく家
本計画は、キュービックな量塊を「水平の連続体」として整えることで、建築がつくり出す余白の質を高めることを主題とした住宅である。
外形は陸屋根によって輪郭を一度フラットにし、街路に対して過度な表情を与えない。その代わりに、屋上を広く確保し、住宅の上部に「外部の余白」をもう一枚重ねることで、内外・上下の関係を更新する構成とした。
敷地は前面道路に対して角度を持ち、境界線が素直に直交しない。そこで建築は、まず動線とヴォリュームを整理するための“基準線”として水平ラインを導入し、街路側に対しては端正な外皮をつくる一方、内部では敷地条件を受け止めながら空間の連なりを組み立てている。
ビルトインガレージは街路との距離をつくる厚みとして働き、生活領域の前に静かなバッファを形成する。玄関は左官の面から引き込み、レッドシダーによる素材の切り替えで、外皮の連続を保ったまま入口の「奥」をつくった。
ドアも同系素材でまとめ、開口を“穴”としてではなく、外皮の折れとして扱っている。
正面外観の開口部は三つに抑え、住宅の表情を極力ニュートラルに保った。視線・設備・配管といったノイズは正面から排除し、壁面の静けさを守る。
これは閉じるための操作ではなく、街路に対して情報を過剰に放出しないことで、住まいの内部に落ち着いた密度を確保するための制御である。外部への“語り”を抑制することで、内部の体験が前景化する。
1階はLDK(約23.75帖)を中心に据え、エントランスからホールを介して生活の核へ導く構成とした。
水廻り・ガレージなどの機能的要素を一側にまとめ、居室(洋室8.35帖)とLDKを隣接させながら、生活が1階で完結し得る将来の可変性も織り込んでいる。
キッチン背面のパントリーは、生活の物量を受け止める“陰”の領域として、表に現れる面を整えるための装置である。
空間構成の中心となるのは、LDKに接続する吹抜けである。吹抜けは単なる開放感の演出ではなく、住宅内部に「寸法の異なる余白」を挿入し、上下階の関係を再編集するための器として計画した。
2階の回廊はこの余白に沿うように設けられ、個室群(6帖×2、6.5帖、7.8帖、10.6帖)とWICを抱え込みながら、生活動線が空間の縁をなぞる体験として立ち上がる。
居室は“閉じた箱”として独立させるのではなく、吹抜けを介した距離感の中で互いの気配を緩やかに共有する。トイレ等の機能は回廊側に寄せ、余白の純度を損なわないよう整理した。
上部には屋上と塔屋を設け、内部の連続を空へ接続する。屋上は単なる付加価値ではなく、地面に代わる「第二の水平面」として扱っている。
1階の床、2階の回廊、そして屋上へと、水平面が段階的に重なりながら、生活のスケールに応じた居場所を編み直す。
塔屋は、その水平の反復に対する小さな垂直の節点であり、吹抜けと屋上、室内と空をつなぐ“切り替え装置”として置かれている。
仕上げは左官壁を基調に、木(レッドシダー、床・建具)と黒の要素(キッチン、手摺等)を抑制的に挿入した。
白い面は“白さ”を主張するためではなく、光の勾配や影の厚みを受け止めるための背景として選んでいる。素材は意匠として語るより、空間の輪郭を静かに支える存在に留め、生活の痕跡が重なることで建築が完成していく余地を残した。
本住宅は、形態の強さで成立するのではなく、水平の連続、開口の制御、機能の集約、そして吹抜けという余白の挿入によって成立している。閉じる/開くの二項対立ではなく、街路への距離、内部の密度、空への抜けを段階的に編むことで、住宅を一つの立体的な構造体として統合することを試みた。